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メイ.サートン著 武田尚子訳『独り居の日記』みすず書房1991年 この作品で始めて日本の読書界に登場したメイ.サートンの独り居からの呼びかけは、さまざまな形の独り居に生きる多くの日本の読者の心に届き、本書はすでに一四刷を重ねた。多数の著作も邦訳出版され、サートンの名は読書人には親しいものになった。 両親を失い、恋人との愛の破局を予感し、同性愛のために大学の職を追われ、さらに作品の不評のために失意のさなかにあった中年のサートンが、未知の土地で踏み出した日々をつづった『独り居の日記』は、生活者サートンと芸術家サートンの肉体と精神の記録であり、時にはその調和が、時にはその葛藤が語られる...永遠なるものに思いをひそめるサートンの高邁と、生活の不便をかこつ卑小な瞬間のサートンのミックスでもある。話題は自然界、芸術、愛、フェミニズム、同性愛、老年、生と死、友情、政治、社会問題など、詩人の生涯の関心事のほとんどに及んでいるが、『独り居の日記』に反復されるもっとも重要なテーマは「孤独」である。孤立に伴う懊悩はないわけではない。しかしサートンが語るのはむしろ、内面を充実させる、創造の時空としての孤独である。さらに、自分を発見させ、自己と他者を真のコミュニオンに導くものとしての孤独が語られるのであり、「孤独』という日本語の持つ、感傷的なニュアンスからはほど遠い... サートンの代表作と目されるこの作品は、おそらくこれからも、読者の心を動かし、独り居の寂寥を内面の充実にかえ、身辺の祝福に新鮮な目を見はりながら、より豊かに生きる勇気をあたえてくれることだろう。